ゴー・ゴー・ナイアガラ宣言




 まずはシンプ・ジャーナル別冊『大滝詠一のゴー!ゴー!ナイアガラ』(84年7月・現在廃刊)の現ニッポン放送専務・亀渕昭信さんの原稿から始めます。

 これほどまでに大瀧詠一のラジオ番組の本質を言い当てた原稿も他にありません。これは12年前の原稿なのですが、まさにラジオ番組『ゴー・ゴー・ナイアガラ』は“インターネット向き”であることを、既に予言されている、と言えます。(ただ、インターネットの場合、“単なるナロー”とは違って、〈ナロー〉の先に〈ブロード〉が繋がっている、人類が今までに体験した事のないメディアですから、単に“明るい材料”だけが揃っているのではなく、未知の泥沼が相当量待ち受けていることも覚悟しておかなければならないでしょう)

 『ゴー・ゴー・ナイアガラ』は、開始当初より、常に“特定個人”に向けての放送でした。その“特定個人”とは誰か?そうです!“大瀧詠一・本人”です(^_^)。自分が自分に話しかける、これが『ゴー・ゴー・ナイアガラ』の基本姿勢でしたし、これからも大瀧がDJをやる限りに於いては、未来永劫変ることはありません。

 亀渕さんのお言葉に――

イレギュラーに宿命なし

 というのがありました。まさに21世紀に正式放送を始める予定のインターネットの『ゴー・ゴー・ナイアガラ』は、“不定期”であるという“最高の特権”を手に入れられるのです。

 そして、レコード作りも、“不定期”という特権(^_^)を手に入れて十数年が経ちました。この“特権”を手に入れるために、私は76年から78まで〈年間4枚〉のアルバム、〈3年間で11枚〉の“アルバム”を作ったのです。

 昨今でも、いかに売れている人でさえそんなに枚数を発表するものではありません。ところが私は“全く売れない”状況になっても狂ったようにアルバム作りをしていたのです。

 なぜ???

 《契約》だったからです。

 「そんな“バカ”な契約、する方が悪いんじゃないの?」

 ごもっとも。m(..)m

 そんな契約をしてしまった理由はいろいろあるのですが、最大の眼目は《FUSSA45スタジオ》を作りたかったからです。

 ここに、亀渕さんが本文で触れられていたように、“商売と趣味”の問題が出て来ます。スタジオの運営するには“定期”の仕事をこなさなければならない。

 75年から78年までのアルバムは、このジレンマの中、FUSSA45スタジオで作られました。まさに地獄の責苦のようなハード・スケジュールでしたが、制作そのものは“悲壮”な感じはサラサラなく、ミュージシャンが泊まり込んだり、合宿のような楽しさもありました。

 現在は以前のようにレコーディングを行った《FUSSA45スタジオ》はありません。しかし! ついに“ここ”に新たな《FUSSA45スタジオ》を持つ事が出来ました。精神的に“ナイアガラな場所”であるなら、別に“具体的な場所”などは必要なかったのです。

 そういう意味合いから、アドレスを“FUSSA45”、そして家頁を《アミーゴ・ガレージ》と名づけました。

 これは、ここが“ガラクタの集めもの”、つまり“子供のオモチャ箱”である、という意味合いです。ですからここには音楽だけでなく、スポーツも落語もあるのです。“広いようだが強い嗜好性がある”とは作家の小林信彦さんの『ゴー・ゴー・ナイアガラ』評ですが、まさに“ソレ”です。

 文中の「パイドパイパー・ハウスが放送局やっても構わないのね」という亀渕さんの発言は、既にタワー・レコードが放送局を始めたことを考えるとまさに“慧眼”の一語に尽きます。更に「ニッポン放送だって、入社したら昨日までの素人が、今日からはプロなんだから」という発言は、一般の人がホームページを持った途端、プロと“同居”することになるインターネットの性質を考えさせられてしまいます。(註:「パイドパイパー・ハウス」とは80年代に“オシャレ”なレコード屋の代名詞的存在の店)

 さて、私は若い頃の難行・苦行のおかげで“不定期”という最大の特権と幸せを現在獲得しています。

 ところが、世の中の方々は未だに難行・苦行の連続のようで、私のこのシ・ア・ワ・セが“目障り”なのか、何とかして「不幸に引きずり込んでやる」とばかりに「働け! 働け!」との御催促。

 せっかく人が“不定期”に楽しんでいるのを、何とかして“定期”に持ち込んでやろう! とする“ヤボな”カンパニー系の方々もおられます。

 私の一番大事なものはこの“不定期”です。せっかく苦労して手に入れたこの宝物を、そう簡単には手放しませんゾ。

 とにかく“ナイアガラなるもの”が何なのか。ここを通じて“私も”探索してみようと考えております。もちろん、“不定期”に、です。

 『ゴー・ゴー・ナイアガラ』のインターネット版の正式放送は21世紀になってからです。それまで自らの命と地球が存続することを祈りますが(^_^)リハーサルは、これまた不定期に行う予定です。(「いつやるのか?」などと“ヤボ”なことは聞きっこナシよ)

1996.6.18 大滝詠一





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